五十年前...二十世紀の終わりに、私の祖父母は出会った。そして今...、ここに、この場所に私がいる。


最終話「これから先は」


彼女は街を見た。五十年前には生きていたはずの街−今は海の底に沈んだ街。祖父母の話...近代日本史の授業...そして、自分の目で見たその姿。昔と同じようで、それでも少しずつ変わってゆく姿。
そこから、彼女の頭の中に一つのイメージが出来上がる。自分の知らないイメージが...。教科書風に言えば、二十世紀末は「激動の時代」...それまであったものが次々と崩れ去り、新しいものができ上がっていった。最後のページには「新生の時代」とまで書いていた。
しかし彼女の描くイメージは、教科書のそれとは少し異なる。確かに今のように安定した時代ではなかったと思うが、人はそれほど不安症ではなかったと思う。今の自分たちと同じだった...そう思っていた。実際に確かめる事は、もうできないが...。
そんなことを考えながら、何気なく周囲に目をやると、彼がとなりにいる事思い出した。一人でずっと考えごとをしていたせいで忘れていた。
ふと...彼はどうなのだろう...と思いはじめる。自分と違う人の意見を聞きたくなっていた。
「ねえ...五十年前ってどんな時代だったと思う?」
彼女の質問は、あまりに突然のものだったが、彼はさほど驚く様子も見せずに答えた。
「『激動の時代』じゃないの?」
「ん−...、そういう教科書に載ってるのじゃなくて...何て言うのかな...。 ...イメージ...とか」
彼は少し考え込む。自分の生まれる前のことなんて、興味がなかったせいか、ほとんどそういう類の事は考えたことがなかった。
「よくわからないけど...いい時代じゃないような気がする...。今の人ほど、周りに気を配る余裕が無いような...」
彼の言葉が少し嬉しかった。自分と違う...そう感じれたせいだ。他人との共通点を見つけて喜ぶことはあっても、その逆ははじめての感覚だった。
「じゃあ、これから先はどう?」
「さあ」
彼は軽く笑いながら受け流す。彼女は知っていた。彼は空想家なのだ。未来は新しいテクノロジーであふれる、SFのような世界だと思っている。自分でもそれが変だ、と気づいているので、わざと未来については話さないのだ。それを知っている分、彼女には彼がおもしろおかしく思えた。あえて口には出さなかったけれど。
「いい時代だといいね...」
特に深い意味もなくそんな事をつぶやく。昔、二十世紀のおわりにも、やはり祖父母は今の自分たちのように、未来について話していたのだろう...。それはきっと夢のような話だったはず...。この日、彼女は未来について考えた...。五十年後の新世紀にも、自分たちのような人がいてくれる事を願って...。
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