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科学者の人って偉いと思う。だって将来、地球の水位が上がるのを予測したんだから。 でも、20世紀の科学者も少し甘かったね。まさか日本の半分が海に沈んじゃうとは思わなかったみたい。 第一話 「海の底の街へ」 「毎年来るんだね。この季節に」 「だって好きなんだもん」 西暦2050年、神戸。昔、震災に見まわれたこの街はゼロからの再出発をへて、日本で一番素敵な街と言われるまでになった。 その後の地球規模の推移上昇で今はもう海の底に沈んでしまったそうだ。教科書にそう書いていたし、おじいちゃんもそういっていた。 かつての街は一面の海と変わり、かつての高層ビルの先端だけが海から顔を出していた。それらはビルというよりは、コンクリートでできた、無機的な無人島といった感じだった。 2人はその無人島に腰掛けていた。ぶらぶらとゆれる彼女の足が、一定のリズムで水面をたたく。彼はその音を聞きながら隣の彼女を眺めた。ふと、こんな少女が酸素ボンベもつけずに何十分も潜水するんだ、と思ってしまう。 「ねえ、いい加減教えてくれない? 潜る理由。いつも、はぐらかしてさ」 ゴーグルをつけながら彼女は思わず微笑んだ。 「神戸にね、昔、おじいちゃんが住んでいたの。子どものころ、おじいちゃんとおばあちゃんの恋物語をよく聞かされたわ。クサいけど、とっても素敵なの。お互い好きになって、神戸の時計台の前で告白したんだって。大好きだったわ、この話」 ウエットスーツで身を包んだ彼女が、水の中へと飛び込んだ。長い黒い髪が水の中でバラバラに分かれてゆく。それを後ろへ束ねながら彼女は水面に顔を出した。とても、潜水に適した季節とはいえないけれど、彼は快く神戸にまで連れてきてくれた。その彼が無人島に腰掛けて水に濡れた彼女を眺めていた。 「いい話だね」 「でしょ?」 いいながら彼女は思わず笑い出してしまった。見上げると、彼もいっしょになって笑っていた。彼が軽く手を振るのが見える。 「気をつけてね」 「うん」 彼の言葉を耳に残して、彼女は海の底へと潜りはじめた。水面が遠くなり、神戸の町が近づいてくる。世界が青から蒼へ、そして碧へと移り変わってゆく。かつて人がいたはずのビルの隙間を縫ってゆく。もっと深く...もっと遠くへ...。 初めてここへ来たとき、胸を押さえつけられるような感覚と共に、ひどく懐かしい気持ちがした。そしてそれは、今でも続いている。ここへ来ると、彼女は自分の知らない「何か」を思い出せるような気がするのだ。 今、彼女の前には神戸の街が広がり、その中に一つの時計台が立っている。彼女が微笑みながらそっとささやいた。−ただいま...−彼女の中で小さな小さな音色が響き渡っていた。 >>第二話 |