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Shinobu Presents


第二十四話 「家族のいるテーブル」


「ごめんね、ほんと。突然に押し掛けちゃって..」
「いいよ、そんなの」
 まだ冷たい空気の漂う朝。私は一人、栞の家を早めに出ようと思って、朝の7時には玄関で靴を履いていた。
 栞は眠ったままのハルを放って、私を送りに家の門の前まで一緒に来てくれた。昨日の夜、あの話の後、私たちはハルにもその飲みかけのワインを飲ませたところ、彼女はとてもアルコールに弱かったらしく、一杯で爆睡モードに入り、今に至る。
 私は昨日着てきた喪服を片手に、栞のコートを羽織っていた。さすがに喪服で朝から電車に乗って帰るのは辛いと思っていたら、彼女がこれを貸してくれた。彼女がよく好んで着る白のコートだった。私は密かにこれに憧れていたので一度こうして手を通すことができて、妙に嬉しさがこみ上げる。
「未帆。昨日の話、あんな中途半端なことを言っておいて何だけど、あんまり気にはしないでね」
「うん、わかってる」
 私は彼女に頷きながら、軽く別れを告げて彼女の家を出た。もう本格的に寒くなってくる時期で、路面もこのあたりはずいぶんと固く凍っていて、半分スケート場の様な状態だった。
 朝の車もずいぶんとスピードが遅くて何だか時間自体がゆっくりと速度を落としているかのようだ。着慣れないコートの中でふと彼女のサイズと私のサイズが本当に同じだという事に気づく。そういえば昨日服を借りたのもすんなりと着ることができた。あれは今朝、出るときに返したのだけれど、本当に彼女には迷惑をかけたと思う。
 昨日の夜の話は確かに気にはなるけれど、今の私にはどうにもならないし、彼女にとっても、きっとあれが最善の策だったのだろう。
 だから私はもう気にするのを止めて、とりあえず早めに家に帰ることにした。多分お母さんが心配してくれているだろうから。近くの駅に来た時にはそろそろ平日なら人が増える時間だけれど、今日は休みなのでほとんど人はいない。こんな時間に空いた電車に乗って家に帰るというのも贅沢な気がしたけれど、自分の家のある駅に着いた頃にはもう何て言い訳をするかを考えてばかりだった。
 駅からバスに乗って、いつものところで降りる。いつもと同じ道だけど、こんな時間に帰るのは初めてなので少し違う道のようにも感じられた。
 時計を見ると、朝の8時前。今日は日曜日だからまだみんな眠っているだろう。私は家族を起こさないようにそっとドアを開けて、音を立てないように自分の部屋へと向かった。何も物音がしないので、やはり全員熟睡しているのだろう。帰ったことを知らせる置き手紙をして、後は自分の部屋で荷物を下ろして楽な服に着替えた。
 自分の部屋なのにずいぶんと久しぶりだ。おじいちゃんの事があって、亡くなった時から葬儀が終わって栞の家に行って、一晩あかして。
あまりに忙しかったせいか、何日かここへ帰ってきた気がしない。実際帰ってきてはいなかったし。

 ベッドに座るとため息が漏れた。おじいちゃんのこと。家族のこと。栞のこと。そして、真一君..。
 何か自分の中に一度にたくさんのものを詰め込まれて、息が出来なくなったような感覚を覚えた。身体の力を抜いてそのままベッドに倒れ込むと、それらが全て抜けていくような気がした。ぼんやりと自分の部屋の静けさを眺めていると、私は今だけでも忘れていたくて、そっと目を閉じて枕に顔を埋めていた。ただ、忘れられるはずなのに、なぜか..目の奥だけが熱かった。
 気が付くと一人。枕の中で声を殺して泣き続けていた..。



 ..いつの間に眠っていたのだろう。目が覚めたときには、もう夕方になっていた。枕ももう乾いていて、涙のあとはなかった。そっと体を起こして机の上の小さな手鏡を取ってのぞき込むと、確かにひどい顔はしていたけれど、涙のあとはこちらにもなかった。これなら家族に顔向け出来るかも知れないと思って、私はベッドから降りる。
 夕方にまで眠っていたという事はお母さんも、私をそのまま寝かしておいてくれたのだろう。
 ..少しお腹がへっている。今日はよく考えると朝も昼も何も食べてはいなかった。ずっと眠っていたわけだから。夕飯は..あるだろうか。お母さんは作っていてくれてるだろうか。
 このまま明日の朝まで部屋にいた方が、迷惑をかけない分、良いのかも知れないけれど、今日はどうしても家族の顔を見ておきたかった。
 私はゆっくりと立ち上がって、そのドアを開けた。少し温かい空気が漂っていた。
階段を下りると、微かに聞こえるテレビの音。リビングの光が漏れて、廊下の色を少し変えている。階段を下りきって色の変わった廊下を歩く。リビングのドアを開けると、そこには、少し懐かしくも感じられる、みんなの姿があった。
 お父さんもお母さんも豊も..私を見て心配しながらも、夕飯ができていたようで、すぐにテーブルへと誘ってくれる。
 そこには私の分のお皿もきちんと置かれていた..。
 私は今までに感じたことのない気持ちで家族のいるテーブルに座った。

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