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Shinobu Presents

第二十話 「またか..」
 ハルと二人でどれくらい歩いただろうか。電車を降りてからさほど時間は経っていないはずだけれど、もう夜も遅いので短い距離がずいぶん長く感じられたのは確かだった。
 ハルは友人の家の前にまで来ると、その人に携帯で電話をかけた。
 さすがにこの時間に家のチャイムを鳴らすのはひどすぎる、もう..何時なのだろうか。彼女が友達と何か話している間に外からその家を見回してみると、門から玄関までかなりあるし、この調子だと庭もかなり広いのだろう。どちらかというと、何十年も前からある感じだけれど、決して古くさい感じがしない。この家を建てた人のセンスの良さが伺える。
 そして何よりも、とにかく大きいのだ。この家に来るときにぐるっと一週してきたけれど、私の家とは桁違いの大きさだった。一体部屋がいくつあるのかという感じで。
 ハルが電話を切ると、にやにやしながら私を見て、ちらちらと門の向こうの玄関を見やる。一体どんな人が出てくるのか怖くもあったけれど、ここまで来て引き返すこともできない。そっと目を閉じて心の中で覚悟を決める。ため息がもれる。
「あ、来たよ」
 とハルが嬉しそうに言うので、私は目を開けて門の方に目をやった。
 そして、しばらく私は視力がおかしくなったのか考えた。ハルの隣でやけに嬉しそうに手を振っているのは、髪を下ろしているとはいえ、明らかに栞としか思えなかった。
「....えっと..」
 右手で自分の髪をいじりながら、しばらく考える。確か、ハルの友達という話でここへ来て..。
「別に私、未帆の知らない友達とは言ってないよ?」
 また子供みたいに嬉しそうに言ってのけるハル。栞まで門に両手をおいて、彼女と同じ表情をしていた。
 ...またやられた。どうして私はこうも単純なんだろう。
「寒いでしょ? 入って、未帆」
 栞は雪の積もった門を開けて、ハルと私を中に入れた。雪が積もっているけれどまだ浅いので、石の畳の道だけはなんとかその姿を見せていた。左右に広がる庭には凹凸のない雪が一面に轢かれていた。まさか、栞の家がここまで広いところだとは..。
「おじゃましまーす」
 ハルが小声で挨拶しながら、あまり足音をたてないように玄関からあがった。私も靴を脱ぐ前に喪服につもった白い雪を払い落し、そしてハルに続いて木目の綺麗な廊下へと上がった。
「私の部屋に行こっか」
 栞はそういうと、廊下をまっすぐに行き、突き当たりの広い階段をそっと上っていく。ハルと私もそれに続き、二階に上がると、そこは私の家よりもかなり広く感じる作りになっていて、上がりきったところにリビングがあった。窓から見える景色も昼間だとすごく綺麗なんだろうと思いながら、少し離れた彼女の部屋へと入った。
 ドアを開けてすぐに栞らしいと思ってしまった。可愛らしい物なんかはないけれど、代わりに楽譜やCDがたくさん棚に並んでいた。そして部屋全体の色調がとても落ちついた色にまとまっていて、まさにモデルルームとしても出せそうな感じだった。
 机の上の生徒会書類の束と、その上のお菓子の山を除けば、だけど。
「何か、可愛げないよ、栞の部屋って」
 ハルがベッドの上に座ってずいぶんと歩いた足をぶらつかせた。
「私がお人形趣味だったら、ある意味、犯罪だと思うんだけど」
 本人の言葉に私も思わず笑いながら、ドアをそっと後ろ手で閉じた。そこで立ったまま、ふと自分の格好を見て、私がまだ喪服を着たままということを思い出す。友達の家にこんな格好で来るというのもひどく礼儀がないというか..。
「未帆、その服、疲れるでしょ? そこのタンスから好きな服取って。多分サイズは合うと思うし」
 栞は机の上の書類を片づけながら、部屋の隅の小さなタンスを指さした。私はさすがにこの格好は辛いものがあったので、遠慮はやめて、借りることにした。
 とりあえず、引き出しを開けて一番最初に見えた薄い色のセーターを出して、喪服を掛けてそれに着替える事にした。その黒く重い装いから離れると、ふいに身体が解放されたように楽になる。
 同時に、心も少し、軽くなったような気がした..。
 ひょっとしたら、喪服自体に悲しませるだけの力があるのかも知れない。そんな事を思う。私が着替え終わった頃に、ちょうど栞もお茶を三つ持って部屋に入ってきた。
「今日は三人で徹夜しよっか」
「いいねえ」
 ハルが声を弾ませながら、「徹夜」という単語に反応した。私もあまり寝たいとは思わなかったし、みんなと話している方がずっと楽に違いなかった。
 ただ、今ふと思い出したのは家族のことだった。私は勝手に一人で葬儀場を出て、ここまで来たのだった。誰にもここにいることを知らせてはいない。
「ごめん、栞。電話借りてもらっていい?」
 私は彼女のOKが出るとそのまま部屋を出て、二階の誰もいないリビングの電話に手をかけた。
大きな窓から見える夜の景色はいつもの私の部屋のものとはずいぶんと違って見えた..。
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